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真夜中の名医 [不思議な話 3]


[病院]真夜中の名医



    
    これは、今から数年前、わたしが二年目の前期研修医として長野県のとある総合病院で臨床研修をしていた時に体験した不思議な出来事です。



    わたしが研修医として赴任したその総合病院では、ベテラン医師の指導のもと、二年目研修医も総合診療を担当できる臨床研修体制が整っていたため、わたしも週に一度は外来診療や夜間の救急診療を任されることになりました。

    そんなわたしが、赴任後初めての夜間当直についた日、救急外来担当のベテラン女性看護師長が、わたしが待機する医局まで挨拶にやって来て、ついでにこんなことを言いだしたのです。

    「山本(仮名)先生、先生はこの病院の夜間当直が初めてだとうかがったので、一言お伝えしておきたいのですが、もしも、今夜これから何か奇妙なことが起きたとしても、あまり気になさらないでくださいね。先生は、患者さんの診察にだけ専念してくださればいいのですから・・・」

    あまりに唐突な話に、何と返事をしたらいいか判らなかったわたしは、

    「奇妙なことって、どういう・・・?」

    と、とっさに訊き返しましたが、看護師長がそれについて説明をしようとした時、早くも彼女の院内携帯電話に急患の知らせが入り、わたしたちは、急ぎ救急外来へと駆け付けねばなりませんでした。

    その後も、何人かの急患の診察や治療を続け、既に深夜二時を過ぎた頃、若い女性の患者さんが一人、救急外来を訪れたのでした。

    その頃は、立て続けの急患受け入れでわたしもかなり疲れ切っていたので、診察室で女性患者さんを前にしてもやや気の緩みが生じていたのかもしれません。

    その若い女性は、背中の右下部分に強い痛みを感じているらしく、額に脂汗をかいていました。

    腎臓障害を疑ったわたしは、尿検査の結果を診て、腎結石の可能性が大きいと判断。腎臓と尿管のエコー検査をしてみたところ、幾つもの小さな結石が確認されたので、結石の痛みをやわらげる薬を処方し、通常診療時間に改めて泌尿器科を受診して欲しいと伝え、今夜のところは帰宅してもらうことにしました。

    すると、女性は、もう一つ腑に落ちない表情で、

    「----でも、最近は、ろっ骨にも痛みがあって、足にも力が入らないことがあるんです」

    と、訴えます。しかし、それ以上は特に緊急性のある症状も見受けられなかったことから、とにかく専門医に相談して欲しいと告げ、彼女を帰しました。

    これで、ようやく一段落したと思ったわたしが、医局へ戻ろうと診察室の椅子から腰を上げかけた時です。

    背後に、ふと人の気配を感じて振り返りました。

    しかし、そこには誰もいません。先ほどまでいたあの看護師長の姿もなく、診察室内が異常に静まり返っているように思え、何だか薄気味悪ささえ感じたのでした。

    何か得体のしれないものに急かされる気分で、その場を立ち去ろうとした瞬間、
 
    「本当に、ただの腎結石だけなのかね?」

    ふいに太い男の声がして、驚いたわたしがその声の方へ視線を移すと、そこには丈の長い白衣を着たかなり年配の見知らぬ男性が佇んでいました。

    その男性は、白い顎髭のある面に穏やかな笑みさえたたえながら、わたしの近くまで寄って来ると、

    「今の女性だけれど、腎臓にそれだけの結石があるということは、何処か他のところにも病変を持っていることが考えられないものかね?わたしは、彼女の骨の痛みや足の違和感も気になるのだが、きみは何も感じないのかな」

    いきなり、そんな説教めいたことを言いだすので、ちょっとカチンときたわたしは、

    「いったい、あなた誰なんですか?この病院の医師の方ですか?」

    きつい口調で訊ねると、その年配男性は、それには答えずにニコニコ微笑みながら、

    「血液検査と甲状腺のエコー検査もしてみた方がいいと思うんだが・・・、今ならまだ患者を呼びとめることが出来るんじゃないのかな?」

    そう偉そうに言います。

    「この時間です。臨床検査技師は、もう帰ってしまっていますよ」

    わたしが答えると、白衣の男性は、

    「だったら、エコーだけでもやってみたらどうかな?答えは患者自身が教えてくれる。そういうものだよ」

    と、それだけを告げ、診察室から出て行ってしまったのです。

    わたしは、名前も身分も語ろうとしないその年配男性に半ば反感を覚えながらも、

    「なんで、腎結石の患者に甲状腺のエコー検査なんだよ・・・」

    と、独り言を呟いた途端、あっと気が付いたのです。その瞬間、わたしの中に一つの病名が思い浮かびました。

    「そうだ・・・、そうかもしれない!」

    わたしは、急いで診察室を出ると、病院の玄関から表へ走り、その女性患者を捜しました。

    駐車場から車で帰ろうとしていた彼女を見付けると、もう一度診察を受けて欲しいと呼びとめ、再度検査をしてみたところ、首の副甲状腺に異常を発見したのでした。

    そこで、女性の腎結石やろっ骨の痛みは、この副甲状腺の異常が原因で起きているもので、改めて内分泌専門医の診察を受けるようにと、助言しました。

    後日、わたしは、診断の見落としに気付かせてくれた白衣の年配男性を院内に捜したのですが、そんな人のことは誰も知りませんでした。

    それから、また次の夜間当直の日がやって来ました。

    前回同様に、あの救急外来担当の看護師長がわたしのところへ挨拶に来ました。

    そこで、わたしは、看護師長にこの間の不思議な白衣の男性の話を聞かせたのですが、彼女は特別驚いた風もなく、平素と変わらぬ表情でこう言ったのです。

    「ああ、それはたぶん、もう二十年も前に亡くなったこの病院の初代院長先生だと思いますよ。この間、山本先生にそのことをお話ししようとしたのですが、急患対応でお教えしそびれてしまいました。実は、この病院には昔から知る人ぞ知る『真夜中の名医』という現象がありまして、若い新人医師が深夜の当直をしていると、初代院長先生の幽霊が仕事ぶりをのぞきにくるのです。先生も、きっと、初代院長先生にお会いになられたんですよ」

    看護師長は、そう言ってニッコリと微笑み、

    「では、よろしくお願いいたします」

    軽くお辞儀をして去って行きました。

    その一年後、わたしは現在の病院へと転勤しましたが、今でもあの夜のことが記憶の隅に残っています。

    で、今のわたしの専門診療科目は、何か-----ですって?

    もちろん、糖尿病・内分泌代謝内科です。

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赤いドレス [不思議な話 3]


[バー]赤いドレス




    これは、ある女性から聞いた怖い話です。

    今から十年以上も前のこと、この女性の女友達で会社員のA子さんが体験したことなのですが・・・・。

    A子さんは、当時二十代後半で独身。

    夜の街には、色とりどりのイルミネーションが輝き、世の中がクリスマスムード一色に染まる頃、ちょっとした悩みを抱えていました。

    それは、翌日の夜に行なわれる、最近通い出した英会話スクール主催のクリスマス・パーティーへ着て行くにふさわしいドレスが、どうしても見付からないということでした。

    デパートのドレスコーナーや貸衣装店などを片っ端から見て回ったのですが、やはり気に入った物がありません。

    これは----と、思うものがあっても、値段が張って手が出せなかったり、サイズが合わなかったりと、もう、どうしたらいいのか判らず、ただただ途方に暮れて街を歩いていました。

    やがて、暗い空には雪も舞い始め、時間はどんどん過ぎて行きます。商店街の各店舗も次々に店仕舞いを始めていました。

    「やだ、どうしよう・・・」

    A子さんの焦りが頂点へ達した時、そんな彼女の目に、とある小さな洋品店の軒先の灯りがポツンと飛び込んで来たのです。

    その小さな洋品店は、表通りからは外れた細い路地の奥まったところにひっそりとありました。

    A子さんは、もはやダメ元覚悟の藁をもつかむ思いで、その洋品店へ入りました。すると、薄暗い店内の古いマネキン人形が着ていた真っ赤なシルクのパーティー・ドレスが目にとまったのでした。

    それは、時代を感じさせるこの古びた洋品店には似つかわしくないドレスでしたが、A子さんは一目で気に入ってしまいました。マネキン人形から脱がせてもらうと、どうやらサイズも申し分ありません。

    店主である年配の女性に値段を訊くと、彼女がいうことには、

    「これは、お売り出来ないんですよ。店飾りのためにディスプレーしてあるだけでして・・・」

    でも、どうしてもそのドレスが諦めきれなかったA子さんは、

    「お金は、あとで何とかしますから、ぜひ売って下さい」

    と、懇願したところ、女性店主は仕方がないという顔つきで、こんなことを言いました。

    「では、お代は結構ですから、お持ちになって下さい。その代わり、お気に召さない時は、すぐにお返し下さいね。それと・・・」

    女性店主は、そこで少し口ごもったあとで、

    「出来れば、夜中の1時までには、このドレスを脱いで下さい。日が昇ってからでしたら、いくら着て下さっても結構なんですが、夜明けまでは着用しないと約束して欲しいんです」

    と、何とも奇妙な説明を付け加えました。

    A子さんは、一瞬その意味を解し兼ねて戸惑ったものの、お代は結構ですと言われたことの方が嬉しくて、女性店主の言葉をほとんど気に留めることもなく、

    「判りました」

    と、一言生返事を返しただけで、ドレスを入れたもらったショッピングバッグを大事そうに抱え、喜び勇んで家へ帰ったのでした。

    翌日の夜、英会話スクールのクリスマス・パーティーへ出席したA子さんの真っ赤なドレス姿は、華やいだ会場内にも映えて、彼女は正にパーティーの花そのものでした。

    男性外国人教師たちも、もちろん彼女に注目。いつもは、どちらかというと地味目のA子さんが、ドレスのオーラのお陰で一躍お姫さま的存在に----。

    参加者の男性たちも手に手にカクテルやオードブルを運んでは、A子さんのご機嫌うかがいに懸命です。

    「これも、このドレスの魅力なのかしら?やっぱり、これにして大正解だったわ」

    A子さんは、鼻高々です。そして、パーティー気分も最高潮のまま、気の合った参加者たちとともに二次会へと繰り出したのでした。

    しかし、楽しい時間はあっという間に過ぎるもので、いつしか時計の針は午前1時をさそうとしていました。

    「夜中の1時までには、このドレスを脱いで下さい」

    昨夜の女性店主の言葉が、お酒でほろ酔い気分のA子さんの脳裏をかすめました。が、

    「別に、関係ないわ・・・。ドレスが消えてなくなるわけじゃあるまいし・・・」

    A子さんは、こんな素敵な夜は人生にそう何度でもあるわけじゃないと、気を取り直し、男性たちとの愉快なおしゃべりを続けていたのでした。

    すると、午前1時を過ぎた辺りから、何だか喉が締め付けられるような違和感を覚え始めたのです。やがて、その違和感は息苦しさまでも伴って、胸が焼けるように痛み始めました。

    「く、苦しい・・・」

    突然、のたうちまわるように苦しみ出したA子さんを見た男性参加者たちは騒然となりました。男性の一人が携帯電話で救急車を呼び、A子さんは、そのまま病院へ搬送されてしまったのです。

    ところが、病院で検査着に着替えるためそのドレスを脱いだ途端、彼女の症状はみるみる回復。

    検査結果は、慣れない酒を大量に飲んだための、急性アルコール中毒の一歩手前ではなかったかということで落ち着いたのでした。

    翌日、体調も戻り、会社に出勤したA子さんは、定時退社したその足で、急ぎドレスをあの洋品店へ返しに行きました。

    「やっぱり、気に入って頂けませんでしたか・・・」

    女性店主は、深々としたため息をつくと、それを再びマネキン人形に着せ、

    「約束を守ってさえもらえたなら、これ以上に魅力的なドレスはそうはないんですけれどね」

    と、如何にも残念そうに呟くのでした。

    それから、一年ほど経ったあとで、A子さんは、ひょんなことから街の喫茶店でそのドレスの噂を耳にしました。

    「何でも、その真っ赤なシルクのドレスは、昔、恋人に捨てられた若い女性が服毒自殺をした時に着ていたものらしいんだよね・・・」

    「その女性が自殺した時間が、深夜1時だったんだってね」

    それを聞いたA子さんは、怖いもの見たさの心理も手伝って、一年ぶりにあの洋品店の前まで足を運んでみました。

    洋品店は、まだそこで営業を続けていました。

    そして、商品陳列用のウィンドーガラス越しに見える店の奥には、例の真っ赤なドレスを着たマネキン人形が、相変わらずの無表情で立っていたそうです。

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隣のベッド [不思議な話 3]


[夜]隣のベッド




    Aさん(60代女性)から聞いたお話です。

    Aさんは、昔から身体があまり丈夫ではなく、若い頃からたびたび病院へ入院したことがあったのだそうです。

    そんなAさんが40代の頃、入院中に実に不可思議な体験をしたのだそうです。

    Aさんがある病院の内科病棟の二人部屋へ入っていた時、隣のベッドには同じく40代の女性患者さんがいたのですが、その患者さんは、Aさんよりも早く退院が決まり、ある日ご主人が迎えに来て病室を去って行ったのだそうです。

    となると、Aさんは、二人部屋を独占状態ということになり、話し相手もいないので、何となく退屈した時間を過ごすようになっていたのですが、一人になって二日目の夜、その不思議なことは起きたのでした。

    既に消灯時間も過ぎて、病棟内の照明が落とされた病室のベッドの中で、Aさんは少しうとうとしていたのだとか。

    やがて、隣のベッドの方で何かの気配がしたので、ふと目を覚ますと、自分のベッドを囲むように覆うカーテン越しに、ぼんやりとした灯りが見えたのだそうです。

    それは、隣のベッドの枕元についている小さな照明器具の灯りだということは判ったのですが、そのベッドにはもう誰もいないはずなのに、どうしてライトが点いているのかAさんには奇妙でした。

    しかも、確かに誰かが隣のベッド付近にいる気配がするのです。

    かすかな息遣いまで聞こえて来たので、Aさんは、何となくベッドの脇のテーブルの上の置時計に目をやりました。

    時刻は、深夜の1時----。

    「きっと、看護婦さんが何か仕事でもしているんだわ」

    と、思い直し、そのまま、また眠りに落ちて行ったのでした。





    そして、翌早朝。

    Aさんは、朝の検温のため病室へ入って来た夜勤の看護婦さんに、

    「夜中の1時に、看護婦さんの誰かが隣のベッドで仕事をしていたようなんだけれど、何かあったの?」

    と、それとなく訊ねたところ、その看護婦さんは、そんなはずはないと笑い、その時間は、誰もこの病室には来ていないと答えたのだといいます。

    「Aさんの点滴は、わたしが深夜勤務についた直後の0時30分に確認しに来ているから----。それに、ここには他に患者さんもいないので、何か勘違いでもしたんじゃないの?」

    看護婦さんはそう言うと、足早に病室を出て行ってしまったのだそうです。

    でも、Aさんは、間違いなくその時、隣のベッドに人の気配を感じたのでした。

    Aさんは、何となく気味が悪くなり、その日のうちに別の病室へ引っ越させてもらったのだということでした。


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夏の日の幻影 [不思議な話 3]


夏の日の幻影





    久しぶりに「不思議な話」を書きます。




    五年前に体調不良を理由に会社を退職してからというもの、妻の実家のある信州に移り住んだわたしにとって、毎日の散歩は欠かすことの出来ない仕事の一つとなっている。

    雨の日も風の日も雪の日も、わたしは、いつもの散歩コースを道一本はずれることなく、バカ正直のように歩き続けて来た。

    今は格別定職もない身ゆえ、この散歩は、既に身体のためというよりも、ある種の義務感さえ伴った強迫観念のようにわたしを突き動かしていた。

    地元住人との接触は照れや煩わしさもあり、散歩コースは出来るだけ人目を避けて山道を歩くようにしているため、ほとんどすれ違う人間はいない。

    たまに、散歩道の山裾際にある墓地へ墓参りに訪れる人や、畑仕事に赴く軽トラックを見かけるくらいである。

    そんな一昨年の夏の夕方のことであった。

    いつものように細い山道を歩いていたわたしの前方に、三人の親子連れの姿が見えたのである。

    うっそうと生い茂る山の土手際の木々の葉の草いきれに満ちた木の暗から、いつの間に現われたのか、若い両親とおぼしき男女が未だ三歳くらいの幼い男の子の手をひいて、楽しげに微笑みながらこちらへ向かって歩いて来るのであった。

    親子は、三人とも何故か浴衣姿で、母親とおぼしき女性の手には、涼しげな朝顔模様の団扇が握られている。

    男女は、わたしとすれ違う瞬間、無言のまま小さく会釈をして通り過ぎて行った。

    わたしも思わず会釈を返したものの、しばらく歩いてから三人の様子が気になって、ふと後ろを振り向いてみた。

    ところが、既にその親子の姿はなく、道端の夏草が夕風にそよいでいるだけだった。




    そして、その翌夕方、またいつもの如く散歩に出たわたしは、再び同じ場所でその浴衣姿の親子連れに出会ったのである。

    わたしは、彼らとすれ違う際、それとなく声をかけてみた。

    「こんにちは。お暑いですねェ」

    すると、足を止めた母親が色白の頬を恥ずかしげにこちらへ向け、小さな声で「ええ・・・」と、一言返して来た。

    そこで、わたしは更に訊ねた。

    「昨日も浴衣をお召しでしたが、何処か近くで夏祭りでもあるんでしょうか?」

    「・・・・・」

    しかし、それに対して両親は無言のまま、ちょっと困ったような笑みを漏らしたが、その両親に代わって幼い男の子が何とも嬉しそうな笑顔で答えた。

    「お祭りに行くんだよ。ぼくも踊りに出るんだよ」

    「そう、楽しそうだね」

    わたしは何食わぬ風に返事をしたが、この近くでお祭りがあるなどという話はついぞ聞いたことがなかったので、なおも奇妙に感じた。

    そのまま、わたしたちは別れたが、しばらくして、おもむろに三人を振り返った時、やはり彼らの姿は既に視界から消えていた。

    わたしは、背筋に冷たいものが走るのを覚え、慌ててその場から走り出すと、一目散に家へと帰った。

    いつもよりも早めに散歩を切り上げて来たわたしの様子に不審を感じたのか、妻が怪訝な顔をするので、この二日間に見たことをありのまま伝えると、

    「それ、もしかして、〇〇さんご家族かもしれないわね」

    と、言う。

    妻が話すには、その〇〇さんは、十年ほど前のお盆に、ちょうどわたしの散歩コース沿いにあった自宅が火事になって一家三人が焼死したのだということであった。

    当時三歳の男の子は、初めて行くはずだった近所の神社の盆踊りをとても楽しみにしていたということで、お盆も間近になった今の時季に、その夏祭りが忘れられず浴衣姿で現われたのではないかと教えてくれた。

    その後、わたしは、再びその親子に会うことはなかったが、今でも夏のお盆の頃になると、散歩道を歩くたびに彼らのことを思い出し、冥福を祈らずにはいられないのである。


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グランドピアノを弾く少女 [不思議な話 3]


[本]グランドピアノを弾く少女



    ミッションスクールと言いますと、やはり、校内に不思議な話はつきものでして、わたしが在学中もそうした話題が尽きたことがありませんでした。

    今日は、そんな話の中から、一つをご紹介しましょう。
 
    それは、校内で行われるクラス対抗の合唱コンクールが一週間後に迫った時のことでした。

    わたしのクラスの窓から前庭を経て、向かいの視聴覚室がよく見えるのですが、視聴覚室の中には、一台のグランドピアノが置いてあるのです。

    合唱のピアノ伴奏を任された生徒は、そのピアノで本番にむけての練習をするのですが、使う順番は早い者勝ちですから、伴奏者は我先に練習をするため朝早くから登校してくるのです。

    その日も、一人の生徒が、練習をするため早々に教室へとやって来ました。窓から外の視聴覚室を見ると既に先客がいて、一人の女生徒がグランドピアノを弾いている姿が見えたのだそうです。

    「なんだ、先を越されちゃったか・・・・」

    と、残念に思いながらも、彼女の次に弾かせてもらおうと、生徒は視聴覚へ向かったのでした。

    ところが、視聴覚室の前へ行き扉のノブを回したところ、鍵がかかっていて室内に入れない。中ではピアノを弾いているはずなのに、メロディーすら聞こえてこない。

    「もう、やめて帰ってしまったのか・・・・?」

    と、思い、鍵を借りるため、その生徒は職員室まで行ったのですが、職員室にいた先生は、生徒にこう言ったのだそうです。

    「おお、早いな。今日は視聴覚室での練習は、お前が初めてだよ」

    「-----?」

    それでは、いったいその生徒が見たグランドピアノを弾く女生徒は何だったのでしょうか?

    噂は、瞬く間に学校中に広がり、それからというもの、視聴覚室へ行くのが少しばかり躊躇われるようになったことを覚えています。あれは、ただの噂話だったのでしょうか?

    それとも・・・・・。(;一_一)

    はるか昔の不思議なエピソードの一つでした。

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スーパー特急の男の子 [不思議な話 3]


スーパー特急の男の子



    JR東日本で勤務する車掌のわたしは、その日、C線のスーパー特急に乗務していました。

    車内検札で車両内を歩いて行くと、二両目の指定の窓際席に三歳ぐらいの小さな男の子が一人、腰かけていたのです。

    そばには親と思われる人の姿もなく、他の乗客もまばらな車内にポツンと座っている男の子の存在は、実に奇妙でもありました。

    男の子は、移り変わる窓の外の景色に夢中で、ニコニコ笑いながらとても楽しそうに足をブラブラさせ身体を揺らしています。

    「一緒に乗っている親は、トイレへでも行っているんだろうな・・・」

    男の子の座る指定席の利用客は、既に手前の駅で降車していたので、わたしは黙認したまま次の車両へと通り過ぎて行きました。

    やがて、再び二両目へ戻って来た時、男の子はまだ一人で車窓の風景を楽しんでいます。少し不審に思ったわたしは、男の子に声をかけました。

    「ねえ、ぼく、お母さんかお父さんが一緒に乗っているんだよね。何処にいるのかな?」

    すると、男の子は、キョトンとした顔を向け、わたしを見上げると、大きく頭を振ります。

    「お母さんもお父さんも、おうち・・・」

    「おうちにいるの?それじゃァ、おばあちゃんと一緒に乗っているのかな?」

    「ううん、おばあちゃんもおじいちゃんも、おうちだよ・・・」

    「それじゃ、ぼくは一人でこの電車に乗っているの?」

    半信半疑で訊ねるわたしの目をまっすぐに見て、男の子は、うん----と、大きく頷いたのでした。

    これは、大変なことになった。こんな幼い子供がたった一人で乗車するなど、尋常なことではないと焦ったわたしは、それでも何処かに付き添いの大人がいるのではないかという思いで、車内を探そうと、ちょうどそこへカートを押しながらやって来た車内販売の女性スタッフに、男の子を見ていて欲しいと頼んだのです。

    しかし、その女性スタッフは、怪訝な表情でわたしを見詰めると、

    「男の子って、何処にいるんですか?」

    「何処にいるって、ここに座って・・・・」

    窓際の指定席を振り返ったわたしは、驚きました。その席には今しがた腰かけていたはずの男の子の姿は影も形もなかったのです。

    まるで、きつねにでもつままれたような気持ちで立ち尽くすと、女性スタッフは、

    「やだ~、しっかりして下さいよ」

    笑いながらカートを押して行ってしまいました。

    やがて、特急列車はトンネルへ入ります。そして、釈然としない気分のままに車掌室へ戻ったわたしが、何気なく窓外に目をやると、そのトンネルを出た直後の線路際にささやかな花束が供えられている光景を、一瞬目の当たりにしたのです。

    その後、同僚の車掌から聞いた話では、数年前、トンネルの入り口付近に住む家族の三歳の男の子が、列車見たさに線路内へ入り、運転士が慌てて非常汽笛を鳴らしてブレーキをかけたが間に合わず、はねられて死亡したという痛ましい事故があったのだそうです。

    きっと、その男の子がどうしても列車に乗りたくて、あの日、偶然わたしの乗務する車両に現われたのかもしれないと、同僚は話しました。

    わたしは、今もC線の車両に乗務するたびに、あの小さな男の子がまた乗っているのではないかと、車内を探してしまうのです。


  ***  この物語はフィクションです。

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共同浴場の声 [不思議な話 3]


共同浴場の声



    ある猛吹雪の夜、街には、ひとっ子一人姿が見えなかった。

    吹きすさぶ風は雪の渦を巻きあがらせ、家々の窓を激しく殴りつけていた。

    そんな夜は、厳しい寒さも影響して、たとえ近所の人たちといえども、共同浴場まで足を運ぶ者はほとんどいない。しかし、足あと一つない新雪の上を慎重に歩みながら、身体を大判のショールで包んだ女性が一人、正に、意を決して、外湯まで出て来たのであった。

    女湯のドアを開けて中に入ると、他には誰ひとり入浴していない証拠に、照明がすべて消されている。彼女は、電源のスイッチを入れると、蛍光灯の明かりが点いた脱衣所へと上がった。

    浴室内の電気も点いて、女性は、冷え切った身体を湯船につからせて一心地ついた時、不透明のガラス壁で仕切られている男湯の方へ眼をやった。

    男湯も、この悪天候のためか誰も入浴しているものはいないので、浴室内の電気は消えて、真っ暗であった。

    女性は、戸外に吹きすさぶ風の音を聞きながら、温かな湯の中で思い切り手足を伸ばし、独りきりの貸切風呂をゆっくりと満喫していた。ところが、そのうちに、彼女の耳に奇妙な音が聞こえてきたのである。

    「ザバーッ、ザバーッ!」

    その音は、男湯の方から聞こえてくるもので、明らかに誰かがお湯を使う音である。洗面器で汲んだお湯を、身体に掛けていると思われる気配の音が、はっきりと聞こえてきたのだった。

    女性は、誰もいないはずの真っ暗な男湯から聞こえてくるお湯を流す音に、思わず聞き耳を立てた。

    (誰か入っているのかしら?だったら、どうして、電気を点けないの・・・・?)

    そう思いながら洗髪をしていると、今度は、もっと不気味な物音が聞こえてきたのであった。それは、男性の低い唸り声のような音であった。

    「お~っ!お~っ!」

    女性は、思わず恐怖心を覚え、髪を洗うのもほどほどに、上がり湯を身体にかけると、慌てて浴室から出ようとした。----と、その時である。

    「あれ?もう、行っちゃうのォ?」

    「-------!?」

    まるで、女性の行動を見ているかのような男のくぐもり声が聞こえ、彼女は、仰天して、濡れた身体を拭くことも忘れ、脱衣所へと戻ったのであった。そして、急いで服を着ると、共同浴場から逃げ出すように吹雪の中へと駆け出したのだった。

    あの真っ暗な男湯の浴室内に、いったい何者がいたのか?-----今もって、謎のままである。

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またまた、不思議な外科医の話 [不思議な話 3]


またまた、不思議な外科医の話




    わたしは、以前、ブログにわたしの手術を担当して下さった不思議な男性外科医の話を書きました。

    その外科医の先生は、誰から聞いた訳でもないのに、わたしのグラグラだった歯が術後はしっかりとして来て、リンゴを食べられるようになったことを知っていたり、いつもマスクで隠している先生の顔を見てみたいと、同室の患者さんに漏らした言葉を、まるで、聞いていたかのように、翌日はマスクなしで回診に来られたりと、実に、不思議な青年でした。

    しかも、「ぼくは、何処へも行きません」と、おっしゃっていたところ、例の新たな臨床研修制度が始まり、大学病院が医師の引き揚げをし始めたために、その先生も引き揚げの対象となり、わたしが通院する病院を去って行かれました。

    そして、その後、わたしは何故か、続けてその先生から電話がかかる夢を見たのです。

    ところが、夢の中で、わたしが受話器をとっても、その度に相手は無言です。奇妙な電話だと思っていたところ、ある時病院へ行くと、いつも面倒を見てくださっていた病院スタッフの女性が、

    「わたし、この間、大学病院へ行く用事があって、その先生に偶然会ったのだけれど、あなたのことを気にされていたわよ。自分が引き揚げの対象になるなんて思わなかったんですって-----」

    と、言うのです。それを聞いて、あの夢の中の電話の意味が、ようやく判ったように思いました。

    そして、その先生は、今、再びわたしの通院する病院へ戻って来られました。

    さらに、また、その先生がわたしの診察中に、こんなことを言われたのです。

    あの日は、三月とはいっても、気温がグングン上がりまるで初夏を思わせるような暖かさで、このまま春も一気に加速して、あとは、桜が咲くのを待つばかりだなどと、待合所でも患者さん同士が話をしていたような時だったのです。

    にもかかわらず、その青年外科医は、わたしにこう忠告したのでした。

    「家の周りを歩くような運動はして下さいね。でも、積もった雪で滑って転んだりしないように気を付けてください」

    雪------?

    もう、今は道路の積雪など何処にも見られないし、この暖かさになれば、雪が降ることなども考えられないのに・・・・。

    わたしは、そんなことを考えながら、診察室を後にしたのですが、なんと、その翌日、長野県北部に大雪が降ったのでした。

    道路は一面の積雪で覆われ、また、真冬に逆戻りです。

    驚きました。

    あの先生の言葉は、ただの偶然だったのでしょうか?

    わたしの担当医は、そんなユニークでシャイで、そしてファンタスティックな青年外科医なのです。

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踏切の小さな手 [不思議な話 3]


踏切の小さな手



    ある私鉄沿線の警報機も遮断機もない、第四種踏切では、小雪のちらつく寒い冬の夜に、奇妙な出来事が起きるという。

    一人のサラリーマンが、家路を急いでその踏切を渡ろうとした時、いきなり、着ているオーバーコートの裾が、何かに引っ張られるような感覚がして、思わずそちらへ目を落とすと、暗闇の中に小さな子どもの手が伸びて来て、オーバーコートの裾を摑んでいるというのである。

    驚いてサラリーマンが目を凝らすと、その小さな手の先には、保育園の年長さんと思われる園児服姿の幼い男の子の愛らしい顔があり、じっと彼を見上げているのであった。

    その男の子は、悲しそうな表情でサラリーマンを見詰めながら、

    「おじちゃん、あぶないよ。気を付けてね」

    そう小声で言うと、ふっと、闇の中に消えてしまったのだそうである。

    また、ある夜には、近所の主婦がその踏切を渡ろうとした時、突然、カーディガンの袖を引っ張られるような気がして振り向くと、そこに、同じような園児服姿の男の子が立っていて、蒼白い顔で彼女を見ると、

    「おばちゃん、この踏切は気を付けてね。カンカンが鳴らないからね・・・・」

    と、言うので、主婦が、思わず、

    「坊や、何処の子?こんな所で何しているの?」

    と、訊ねた途端、その男の子の姿は、消えてしまったのだともいう。
 
    この第四種踏切に現われる小さな男の子の噂は、いつしか、街中に広まり、きっと、以前にこの踏切で電車にはねられて亡くなった保育園児の男の子ではないかと、住民たちは話し合うようになったそうである。

    その男の子が、踏切を渡る人たちを心配して、「警報機も遮断機もない踏切だから、気を付けて渡ってね。ぼくみたいにならないでね」と、教えているのではないかと、考えた住民の有志は、その後、その踏切にせめて警報機だけでもつけて欲しいと、鉄道会社に頼み込み、それからしばらくして、その第四種踏切には、警報機が設置されたということである。

    それからというもの、男の子の霊をその踏切で見かける人たちはいなくなったが、今でも、警報機の傍らには、花を手向けて手を合わせる住民の姿がたえないという。

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無賃乗車(後) [不思議な話 3]


無 賃 乗 車(後)




    「そんなことがあったんですか・・・」

    小山内弓子は、小暮主任の話を聞いて、何も知らずに老人を責めてしまった自分を恥じた。

    「それで、会社は、その申し出を受けたんですね」

    「そういうことだよ。だから、あのおじいさんは、何処へ行くにも、うちの会社のバスを使う限りタダなんだ。だから、きみも、そのことは承知しておいてくれ」

    小暮は、そう言って、営業所をあとにした。




    その後も、弓子が運転する定期路線バスには、毎日、その老人が乗ってきた。

    仏頂面で、弓子を一睨みすると、黙ってバスから降りて行く。しかし、やはり、いつもの如く無賃乗車である。

    そんな日々が三ヵ月も続いた頃だろうか。ある時を境に、その老人の姿がぱったりと見えなくなってしまった。いつもの時刻、いつもの小学校前の停留所にも、老人の姿はない。

    弓子は、いつも顔を合わせていた老人がバスに乗らなくなったことに、一抹の寂しさのような落胆にも似た感情を懐いている自分に気付いていた。

    「おじいさん、どうしたのかしら?最近、顔をみないけれど、身体でもこわしたのかな?」

    最初は、気難しい頑固じいさんを絵にかいたような嫌な老人だと思っていたのだが、姿が見えなくなってしまうと、何となく心配にもなって来る。

    そして、季節が早くも初冬を迎え、街に木枯らしが吹く、ある寒い夜のこと、小学校の前の停留所から、久しぶりにその老人がバスに乗り込んで来たのであった。

    (おじいさん、元気だったんだ。よかった----)

    弓子は、ホッと胸をなでおろした。バスがやがて、いつものように終点の駅前に到着すると、他の乗客たちがすべて降車したあとから、老人も杖をつきながら、ゆっくりとした足取りで、弓子のそばへとやってきた。

    ところが、その時、老人は珍しく彼女の方へ笑顔を向け、こう言ったのである。

    「おれの孫も、生きていれば、あんたぐらいの年になっているんだよな・・・。でも、もう、今日で無賃乗車は、終わりだよ」

    「え?どうして----?」

    思わず、弓子が急き込むように訊ねると、老人は、さらに嬉しそうに目を細める。

    「その孫が、迎えに来てくれたからねェ・・・」

    そう言って、バスの降車口の方を見やるので、弓子も、そちらへ目を向ける。と、タラップの先に、ちょうど小学校一年生ぐらいの小さなおかっぱ頭の女の子が、赤いランドセルを背負って立っているのが見えた。

    老人は、弓子にそっとお辞儀をし、バスを降りる。そして、その小さな女の子と手をつなぐと、静かに闇の向こうへと歩み去って行ったのであった。

    弓子は、何となく温かな気持ちを胸に、営業所の事務室へと入る。

    彼女は、老人が無賃乗車を今日でおしまいにすると、話したことを、小暮主任に伝えようと彼のデスクの方へ近付いた。

    「主任、実は、今しがた・・・」

    しかし、その言葉を小暮の方が遮った。

    「小山内君、さっき、本社の方に家族から連絡があったそうなんだが、あの無賃乗車のおじいさん、今朝、病院で亡くなったんだってさ。しばらく入院していたんだけれど、ダメだったそうだよ。これまで長い間、義父(ちち)がお世話になりましたって、お嫁さんが電話をして来られたんだそうだ」

    これを聞いた弓子の顔から、たちまち血の気が失せた。

    「そんなこと・・・・・。だって、主任、あたし、今、そのおじいさんをバスに乗せて、ここまで運んで来たんですよ。赤いランドセルの女の子がお迎えに来ていて・・・」 

    「女の子って、まさか、おかっぱ頭の子供か・・・?」

    小暮は、身を乗り出して訊く。弓子が、そうですと答えると、

    「交通事故で亡くなったのは、その女の子だよ」

    小暮は、ふうと、一つ長歎息をつき、こう呟いた。

    「おじいさん、やっと、孫娘と一緒にうちへ帰ることが出来たんだな・・・」




おわり




    <この物語はフィクションであり、登場する人物名は、架空のものです>

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