おばさんたちの漬物自慢 [日々の雑感 10]


[喫茶店]おばさんたちの漬物自慢



    昔、小原流の華道を習っていた時、同じ教室へ通って来ていた年配の女性たちは、いつも決まって、自宅から漬物やら果物の砂糖煮やらを、タッパーに入れて持って来ていた。

    そして、お花のお稽古が一段落すると、華道教師を囲んで、必ずというほどにお茶会が始まるのである。

    そういう年配の生徒の中には、華道の稽古などそっちのけで、このお茶会だけを楽しみにやって来る人もいて、一向に上達しないので、教える側の先生もやきもきしていたものであった。

    しかし、このお茶会も、最初のうちはささやかにお茶だけを飲むもので、ごく短時間でお開きとなっていたのであるが、やがてお菓子を持ち寄る女性や、少しばかりの野沢菜漬けなどを持って来る人も出て来ると、次第にエスカレート。

    大きなタッパーに自家製の奈良漬やクッキーなども入れて来たかと思うと、有名店のアイスクリームやケーキなどまでも運んで来るようになってしまったのである。

    そして、そのうちにケーキも手作りとなり、もはや華道教室に来たのか、茶話会に来たのか判らない状態で、世間話に花が咲くだけでなく、華道教室はいつも間にか料理コンテスト会場の様相を呈すると、彼女たちは漬け方や作り方の講義で時間の経つのを忘れて話し込むのであった。

    わたしのような新参者は、そんなおばさんたちの話をただ頷きながら黙々と聞くばかり----。

    正直、漬け物の講釈などどうでもよかったので、むしろ、何故、彼女たちはこれほどまでに自分の手作り料理を他人に食べさせたいのか、そちらの方が気になっていた。

    いつの世も、女性が集まるところに食べ物は付いて回る訳で、どうして彼女たちは、物を食べないと会話が出来ないのかが疑問だった。

    しかし、このお茶会に参加することで、その理由が少し判ったような気がした。

    要は、おばさんたちには、共通の話題が少ないのである。誰もが等しく話の仲間に加われるアイテムが、漬け物や手作り菓子という料理なのである。

    しかも、自分がどれだけおいしい料理が作れるのかということは、他の女性たちに対して唯一自慢できる事柄でもあるのだ。つまり、彼女たちは、自家製の漬物などを持ち寄ることで、それとなく料理自慢をしていたのである。

    「あら、奥さん、このお漬け物おいしいわ。どうやって漬けているの?」

    「これね、ほんの少しだけどハチミツを入れるのよ。そうすると、こういうまろやかな口当たりになって、角の取れた味になるの」

    「そうなの。わたしも、今度やってみようかしら・・・。いいこと教えてもらったわ」

    なんて、感動しながらも、内心では、

    (なによ、あたしが漬けた方が断然おいしいわ)

    と、ひそかなライバル心を燃やしているものなのだ。

    女性は、食べ物がないと会話が続かないのではなく、会話の席を利用して自分の料理自慢や、どれほど日常的に高級な食材で食卓を賄っているのかということをそれとなく公言しているのである。

    よって、女性が集まる場所は、常に食卓自慢&料理コンテスト会場といっても過言ではないのだ。

    彼女たちが楽しんで話をしていると思ったら大間違い。微笑みの陰で、そっと相手の料理の味を確かめ、盗み、次回は脱帽させるための作戦を練っているのである。

    お判りかな、男性諸君。(笑)

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<今日のおまけ>

    散歩の途中、ある学校のそばを通ったら、平屋の校舎の屋根の上に一人の男子生徒が立っていた。

    音楽か何かをCDプレーヤーで聴いている様子で、他の生徒たちは皆、授業中だというのに、彼だけは悠然と素知らぬ顔で秋風の中にいる。

    教師たちが別段咎め立てる気配もなく、それを見ている近所のおばさんたちも野沢菜洗いをしながら慌てるそぶりもない。

    いつもの風景の一コマなのであろう。

    少年にとっては、十年後、これも良き思い出の一つとなるのだと思う。

    勉強勉強で明け暮れる学生時代も大事だが、こんな自由な青春もありだな・・・と、ちょっとうらやましく感じた瞬間であった。

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